制度解説

「初回500円」は、どこから違反になるのか。国が見たのは値引きの幅ではなく、その値段で買えるかどうかだった

まず結論
  • 「○○円~」が違反になる分かれ目は、割引の大きさではなく、その下限価格で実際に買えるかどうかだ。
  • 「別途費用がかかります」という注記を足しても、下限価格そのものが実態から離れていれば解消しない。
  • 買う側が見るべきなのは広告の数字ではなく、申込みの最終確認画面に書かれた2回目以降の価格と解約条件のほうだ。

1国が2026年9月に出した命令は、価格の書き方についてのものだった

睡眠サプリの広告で最も目につく数字は、たいてい効果ではなく値段のほうだ。初回500円、初回実質無料、お試し980円。この書き方のどこまでが許されているのかは、成分の議論とは別のところで決まっている。

消費者庁が2026年9月18日に出した措置命令は、ちょうどこの点についての判断だった。対象は葬儀サービスの会社で、サプリではない。ただ、問われた構造は「○○円~」と書くすべての広告に共通している。

命令書によれば、テレビコマーシャルで「お得なプランがこの価格から」という音声とともに「家族葬 10.45万円~ (税込)」という文字を出していた。消費者庁はこれを、最低料金として10万4500円で提供されるかのように表示していた、と認定している。

そして実際のほうについて、命令書はこう書いている。本件役務の提供を受けるには、僅かな場合を除き、30万8000円以上の費用が必要であった。

適用されたのは景品表示法第5条第2号、有利誤認表示だ。

2争われたのは、値引き幅でも比較対照価格でもない

価格の不当表示というと、二重価格が思い浮かぶ。実際には売っていない値段を横線で消して、そこから何割引きと見せる書き方のことだ。今回の命令はそれとは違う。比較対照価格は出てこないし、割引率も争点になっていない。

見られたのは【提示した最低価格に、実際に到達できるのか】という一点だった。10万4500円という数字自体が嘘だったわけではない。おそらく、理論上はその価格の構成が存在した。ただ、その価格で契約できた人が「僅かな場合」しかいなかった。それだけで足りている。

ここが、広告を作る側にとっては厳しい。下限価格を書くこと自体は禁じられていないし、何を書けば安全という文言のリストもない。実際の取引がどうなっているかという、広告の外側の事実で判定される。

サプリの定期購入に引き寄せると、初回500円と大きく書いたうえで、2回目以降が5,980円、4回続けないと解約できない、という設計がよくある。この場合、実際に支払う総額は初回価格から大きく離れる。表示された500円に「到達できている」と言えるのかは、その設計をどう説明しているかで変わってくる。

3注記では消えない

「別途費用がかかります」「プランにより価格が異なります」と小さく添えてあれば大丈夫だろうか、という考え方がある。今回の命令は、その発想に対する答えになっている。

命令書には、注記の有無に関する検討は出てこない。認定されているのは、表示から受ける印象と、実際に必要だった費用との差だけだ。下限価格そのものが実態から離れていれば、その一点で見られる。

同じ構造は、このサイトの「満足度94%」は誰に聞いた数字なのかでも出てきた。消費者庁の実態調査は、「イメージ調査です」と注記を付けても表示と調査結果が対応していないことは変わらない、という考え方を示している。打ち消しの一行を足せば元の表示が救われるという設計は、景品表示法では通らない。

4ここが、効果の広告と価格の広告で決定的に違う

効果について実務をしている人ほど見落としやすい違いがあるので、条文で確かめておきたい。

景品表示法には不実証広告規制と呼ばれる仕組みがある。消費者庁が事業者に対して、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、出さなければ不当表示とみなされる、というものだ。効果や性能を訴える広告が問題になったとき、まず走るのはこの手続きになる。

ところが、この仕組みの条文である第7条第2項には、範囲の限定が入っている。事業者がした表示が【第5条第1号に該当するか否か】を判断するため必要があると認めるとき、と書かれている。第5条第1号は優良誤認、つまり品質や効果の話だ。

今回の命令が使ったのは第5条第2号、価格その他の取引条件のほうだった。こちらには、資料を出させて出せなければ不当表示とみなす、という条文上の仕組みが付いていない。

この違いは実務の順番を変える。効果の表示であれば、手元の根拠資料をどう整えるかという勝負になる。価格の表示にはその余地がない。実際にいくらで売れていたのかという取引実績が事実として調べられ、それと表示との距離で判定される。社内で「この注記を足せば根拠になる」と議論しても、価格については対応する制度がそもそも存在しない。

命令書のなかで実際に認定されているのも、「僅かな場合を除き、30万8000円以上の費用が必要であった」という実態の一行だけだった。

5制作を外注していても、発注した側が表示の主体になる

もう一点、命令書の事実認定に、広告の作り方についての記述がある。原文はこうなっている。

本件役務に係るテレビコマーシャルの表示内容の決定について広告制作等を行う事業者に委ねることにより、当該表示内容の決定に関与している

広告制作を外部に委ねていたことが、表示内容の決定に関与していない理由にはならない、という認定だ。代理店や制作会社に任せて出した広告であっても、発注した側が表示の主体から外れるわけではない。

買う側には直接関係しない話に見えるが、広告に書いてある価格について問い合わせる相手は、制作会社ではなく販売している会社でよい、ということでもある。

6広告ではなく、最終確認画面を見る

ここまでは景品表示法の話で、対象は広告だ。定期購入については、もう一つ別の法律が、申込みの画面そのものに表示義務をかけている。特定商取引法の第12条の6、特定申込みを受ける際の表示だ。

インターネット通販で契約の申込みを行う場合、最終確認画面に次の事項を表示することが定められている。分量、販売価格(送料についても表示が必要)、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、申込みの期間に関する定めがあるときはその旨と内容、そして契約の申込みの撤回または解除に関する事項だ。あわせて、契約の申込みとなることを誤認させるような表示や、これらの事項について誤認させるような表示も禁止されている。

つまり、何回続ける必要があるのか、2回目以降はいくらなのか、やめたいときはどうするのかは、広告の隅に小さく書いてあればよいものではなく、注文を確定するあの画面に書かれていなければならない。

さらに第15条の4は、この表示義務に違反して不実の表示がなされ、それを事実だと誤認して申し込んだ場合や、表示されるべき事項が表示されず、そのような事項は存在しないと誤認して申し込んだ場合に、申込みの意思表示を取り消すことができると定めている。

だから、実際に注文する場面での順番はこうなる。広告の500円を見て判断せず、最終確認画面まで進んで、2回目以降の価格と、解約までに必要な回数と、解約の方法を読む。そこに書かれていなければ、それ自体が特定商取引法の問題になる。

7制度が三つ重なっているので、混ぜない

この記事で扱った内容は、隣接する制度と混ざりやすいので線を引いておく。

景品表示法の有利誤認(第5条第2号)は、広告の価格表示についてのものだ。今回の措置命令はここに当たる。

特定商取引法の第12条の6は、広告ではなく申込み画面についてのもので、書かれるべき項目が条文で決まっている。広告の価格表示を直しても、最終確認画面は直らない。逆もまた同じで、制度が別なので片方の適法性はもう片方を保証しない。

そして薬機法は、価格を見ていない。このサイトで扱ってきた薬機法の境界線マップや届出表示の読み方は、効能や効果をどこまで書けるかという話であって、いくらで売るかという表示は守備範囲の外にある。効能の表現が適法な商品でも、価格の書き方で行政処分を受けることはある。

今回の命令は葬儀サービスについてのものであって、サプリメントの定期購入に自動的に当てはまるわけではない。共通しているのは業種ではなく、「○○円~」という表示の型のほうだ。また、サプリの定期購入で初回価格の表示がどれくらい違反と判断されているのかについて、件数を示す統計はこの記事では調べていない。手元にあるのは今回の1件の命令書だけで、それ以上の広がりを数字で語ることはできない。

8この記事のポイント

商品そのものの選び方は睡眠サプリの選び方に、箱や広告に書かれた効果の文章の読み方は届出表示の読み方にまとめた。試験結果やグラフの見せ方については広告のグラフはどこから盛りになるのかで扱っている。


【監修】まさ(現役で通販事業の顧問を務める薬剤師/薬機法管理者・景表法第1級)

【出典】

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