制度解説

薬機法の境界線マップ。「書ける」と「違法」の間には、実は四段階ある

まず結論
  • 「書ける」か「違法」かの二択ではない。実際は書ける・範囲内のみ・書けない・違法の四段階がある。
  • 睡眠の質とメンタルの不調は連続した話に見えて、法律上は途中で扱いが変わる。
  • この線を正確に引けることが、薬剤師がこのサイトで担っている一番の役目だ。

1なぜ「二択」で考えると失敗するか

健康食品の広告を見ていると、「これは言っていい」「これは言ってはいけない」の二択で語られがちだ。けれど実務でこの線を引くとき、そこまで単純ではない。同じ「眠りにまつわる不調」でも、どの言葉を使うかによって、合法・グレー・違法がグラデーションで変わる。ここを大づかみに二択でとらえると、書けるはずの表現を過剰に自粛したり、逆に一線を越えて薬機法に触れたりする。

下の図は、睡眠からメンタルの不調にかけての表現が、実際にどう区切られているかを示したものだ。

睡眠の質 機能性表示食品の 届出表示で「睡眠の 質を高める」が引用 できる。 引用で書ける 一時的な 作業ストレス 「一過性の作業に よるストレスをやわ らげる」など、届出 の範囲なら書ける。 範囲内のみ 継続的な 不安・落ち込み 「不安が消える」 「気分の落ち込み に効く」は一般食品 では書けない。 書けない 不眠症・うつ・ 不安障害 疾患名に触れた時点 で未承認医薬品の 効能表示。完全に 医薬品の領域。 違法・医薬品領域 ◀ 食品として書ける 医薬品として規制される ▶ 左の二つのゾーンだけを、合法の限界まで正確に攻める。「ストレス緩和(届出表示の範囲・合法)」と 「不安障害の改善(疾患・違法)」を取り違えないこと——これが資本では模倣できない一番の堀になる。

2四つのゾーンを、言葉で補足する

図の左から二つ(睡眠の質、一時的な作業ストレス)は、機能性表示食品として届け出た範囲であれば、その言葉をそのまま使ってよい。ここは届出表示の読み方で説明したとおり、「報告されています」という語尾ごと引用するのが正しい使い方になる。

三つめ(継続的な不安・落ち込み)は、多くの人が「これくらいなら大丈夫だろう」と踏み込みがちな領域だ。だが、一般食品はもちろん、機能性表示食品の届出範囲を超えて「不安が消える」「気分が晴れる」と書いた瞬間、根拠のない優良誤認表示になる。ここは睡眠とメンタルの話が地続きに見えて、実務上もっとも事故が起きやすい境目だ。

四つめ(不眠症・うつ・不安障害)は、疾患名そのものに触れた時点で、食品の話ではなくなる。未承認の医薬品的な効能効果を標榜したことになり、薬機法上はっきりと違法になる。「よく眠れないので」という悩みの延長で、うっかり病名を書いてしまう広告は少なくない。

3疾病名を避けても、まだ落ちる。もう一本の線がある

ここまでの図は、睡眠からメンタルへ横に伸びる一本の軸で描いてある。ただ、この軸には写らない禁止のかたちがもう一つある。

消費者庁の届出の手引きは、表示しようとする機能性について、してはならない表現を三つに分けて挙げている。一つめが「疾病の治療効果又は予防効果を暗示すること」で、例として糖尿病、高血圧、花粉症、副鼻腔炎、風邪様症状、風邪予防が並ぶ。図のいちばん右のゾーンがこれに当たる。

引っかかるのは二つめだ。「健康の維持及び増進の範囲を超えた、意図的な健康の増強を標榜するものと認められること」とされ、例に挙がっているのは肉体改造、増毛、美白である。ここには疾病名が一つも出てこない。病名を使ったかどうかとは無関係に、別の理由で落ちる表現があるということになる。

睡眠の話に置き換えると、これは「短い睡眠でも平気な体になる」「睡眠時間を削れる」といった方向の表現だ。不眠症にもうつにも触れていないので、一本の軸だけを見ていると危ない場所を通っていないように見える。けれど健康を維持・増進する範囲を超えて能力を上げる話になっているので、二つめの類型で止まる。疾病名を消したところで安全確認を終える手順だと、この種の表現はいつまでも残る。

三つめは、科学的根拠に基づいて説明されていない機能性だ。限られた免疫指標のデータだけで身体全体の免疫を語る表現などが名指しされている。

そして手引きは、この三つを挙げたうえで「下記例に示されていない表現についても、下記(a)、(b)及び(c)に記載の表現に該当しない必要があることに留意すること」と書いている。並んでいる語は例であって、禁止語の一覧ではない。糖尿病・高血圧・肉体改造・美白といった語をNGワードとして検索で潰していく運用は、この一文と噛み合っていない。

4文言を直しても、医薬品の判定が外れないことがある

ここまでは何を書くかの話だった。もう一つ、書いた言葉の外側で決まる部分がある。

食品が医薬品とみなされるかどうかの基準は、昭和46年6月1日の薬発第476号「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」の別紙「医薬品の範囲に関する基準」にある。この基準は、標榜された効能効果だけを見ているわけではない。成分本質(原材料)、形状、効能効果の標榜、用法用量を総合して判断するという建て付けになっている。だから広告の一文を書き換えても、ほかの要素が残っていれば判定が動かないことがある。用法用量の書き方はその代表で、「1日3回、食後に」のように医薬品の服用指示へ寄せた表記は、効能効果の記述とは別のところで効いてくる。

形状については、平成13年3月27日の医薬発第243号による改正で扱いが変わっている。「『食品』である旨が明示されている場合、原則として、形状のみによって医薬品に該当するか否かの判断は行わないこととする」とされた。錠剤やカプセルのサプリメントが、形だけを理由に医薬品にならないのはこのためだ。ただし同じ通知は続けて、「アンプル形状など通常の食品としては流通しない形状を用いることなどにより、消費者に医薬品と誤認させることを目的としていると考えられる場合は、医薬品と判断する必要がある」としている。形が自由になったのではなく、誤認させる目的があるかどうかへ判断の軸が移った、と読むのが正確だと考えている。

この二つの世界は、別々に動いているわけでもない。届出の手引き自身が、届け出ようとする食品と機能性関与成分について476号の別紙を参照し、「専ら医薬品として使用される成分本質(原材料)リスト」に含まれないことを確認するよう求めている。食品表示の手続きの中に、薬機法側の確認が組み込まれている。

なお、ここで引いた手引きは機能性表示食品の届出制度の文書であって、届出をしていない一般の食品の広告を直接しばるものではない。ただ、届出のない食品が同じ表現を使えば、裏づけがない分だけ立場は悪くなる。476号のほうは食品全般にかかる基準で、こちらに届出の有無は関係しない。

5どの文書を見ればいいか

制度の文書は入れ替わる。この記事を書き直した2026年8月の時点で、届出の実務文書は「機能性表示食品の届出等に関するマニュアル」(令和6年8月30日・消食表第775号)から「機能性表示食品の届出等に関する手引き」(令和7年3月25日・消食表第273号、令和7年10月1日・消食表第711号で一部改正)へ置き換わっている。手引きの冒頭に、マニュアルは廃止すると明記されている。手元の確認手順が古いマニュアルを根拠にしたままなら、そこは差し替えが要る。

自分で確かめる順番はこうなる。まず消費者庁の機能性表示食品のページから最新の手引きを開き、制定日と改正日を頭で確認する。次に、その商品の届出番号を届出データベースで引いて、届出表示の一字一句を見る。そのうえで、書こうとしている文が手引きの三類型のどれかに触れていないかを当てる。順番を逆にして、書いた文を後から正当化する資料を探しに行くと、たいてい都合のいい二次情報にたどり着く。

6これが、なぜこのサイトの核なのか

睡眠の悩みを抱える人の多くは、「眠れない」の背景に軽いストレスから深刻な不調まで、幅広いグラデーションを持っている。だから健康食品のサイトも、放っておくと表現がこのグラデーションのどこかで踏み外す。逆に言えば、ガセリ菌CP2305のように精神的ストレスまで書ける成分と、GABAのように届出によって書ける範囲が変わる成分を、正確に区別して伝えられること自体が、薬剤師が運営する意味になる。

7この記事のポイント


【監修】まさ(現役で通販事業の顧問を務める薬剤師/薬機法管理者・景表法第1級)

【出典】

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