制度解説

スマートウォッチの睡眠スコアは当てになるか。薬剤師が計測の限界と使い方を整理する

まず結論
  • スマートウォッチや睡眠アプリの多くは、脳波を測っていない。心拍と体の動きから睡眠段階を推定しているので、「深い眠りが何分」という数字は測定値ではなく推定値。
  • 同じ機器でも、医療機器として承認された機能(一部の心電図や血中酸素の測定など)と、そうでない機能(睡眠スコア)が同居している。「医療機器だから睡眠の数字も正確」ではない。
  • 傾向を見る道具としては十分に役立つ。ただし、いびきや日中の強い眠気があるなら、点数が良くても睡眠時無呼吸を否定する材料にはならない。

1何を測って、何を推定しているのか

睡眠の段階を正確に測る方法は、医療機関で行う睡眠ポリグラフ検査です。脳波、眼の動き、筋肉の活動、呼吸、血中酸素などを同時に記録して、そこから浅い睡眠・深い睡眠・レム睡眠を判定します。

一方、手首につけるスマートウォッチやリングは、脳波を測っていません。測っているのは主に心拍と体の動き、機種によっては皮膚温や血中酸素です。そこから「この心拍の落ち方と動きの少なさなら、たぶん深い睡眠だろう」とアルゴリズムが推定しています。つまり画面に出る「深い眠り 1時間20分」は、測った結果ではなく計算した推定です。

これは欠陥ではなく、そもそもの設計です。毎晩自宅で気軽に測れることと引き換えに、精度を割り切っている。問題になるのは、推定値を測定値だと思い込んだときだけです。

2「医療機器」の表示は、どこまでかかっているのか

寝具の記事でも同じ構図に触れましたが、デバイスでも整理が要ります。腕時計型の機器には、医療機器として承認や認証を受けた機能を持つものがあります。心電図の記録機能などがそれにあたり、これは正式な手続きを経ています。

ただし、承認されているのはその特定の機能であって、その機器のすべての表示ではありません。同じ製品の中に、医療機器としての機能と、一般の健康管理機能が同居しています。睡眠スコアや睡眠段階の表示は、通常この後者です。だから「医療機器の認証を受けた製品だから、睡眠の数字も医療レベル」という読み方は成り立ちません。

広告や紹介記事では、この二つが並べて書かれることがあります。医療機器という言葉で信頼を作り、その近くに睡眠の話を置く。どちらの文も単独では間違っていないのに、続けて読むと精度の保証があるように見える。表示の読み方については届出表示の読み方にも通じる話で、どの機能に何の裏づけがあるのかを分けて読む癖が要ります。

3数字に振り回されないための見方

では役に立たないのかというと、そんなことはありません。使い方を間違えなければ、有用な道具です。

役立つのは、絶対値ではなく傾向を見るときです。一晩の点数に意味を求めるのではなく、二週間の平均で就寝時刻がどれくらいばらついているか、休日にどれだけずれているか、飲酒した日と翌朝の数値がどう違うか。こうした自分の中での比較は、機器の推定精度が多少甘くても傾向として現れます。実際、寝酒の翌日に数値が崩れるのは多くの人が確認できます。

逆に、他人と点数を比べることや、一晩ごとの上下に一喜一憂することには、あまり意味がありません。むしろ点数を気にしすぎて眠れなくなる、という本末転倒も起こります。眠りは意識するほど遠のく性質があるので、数字を見るのは朝だけにする、といった距離の取り方が現実的です。睡眠時間そのものの考え方は睡眠時間は何時間必要かにまとめました。

4点数が良くても、否定できないもの

ここが薬剤師として一番伝えたいところです。

睡眠時無呼吸は、スマートウォッチの睡眠スコアでは判断できません。血中酸素の測定機能がある機種でも、それは医療機関の検査の代わりにはならず、実際には呼吸が止まっているのにスコアは悪くない、ということが起こり得ます。いびきが大きいと言われる、日中に強い眠気がある、朝に頭が重い——こうした症状があるなら、点数が良いことを安心材料にしないでください。詳しくはいびき・睡眠時無呼吸が気になるときに整理しています。

日中の強い眠気には他の背景もあります。そちらは日中の強い眠気を参考にしてください。デバイスの数字は、受診する理由にはなっても、受診しない理由にはならない。この非対称性は覚えておいて損がありません。

5買う前に考えたいこと

計測機器を導入するかどうかは、目的で決まります。生活リズムのばらつきを可視化して整えたい、飲酒や運動の影響を自分で確かめたい——こうした目的なら、機器は素直に役立ちます。手首が気になって眠れない人はリング型、という選び方もあります。

一方、「眠れないのを解決したい」という動機で買うなら、順番が違います。測っても眠れるようにはならないからです。まず光と温度と寝る前の過ごし方を整え、それでも引っかかるなら寝具の合わせ方を見る。全体の順番は睡眠の質を上げる方法にまとめてあります。計測は、整えた結果を確認する道具であって、整えるための道具ではありません。

朝起きてもすっきりしない状態が続いているなら、その原因の切り分けを先に見てください。数値化は安心にも不安にもなります。自分がどちらに転びやすいかを知ったうえで選ぶのが、たぶん一番実際的です。


【監修】まさ(薬剤師・運営者/薬機法管理者/景表法第1級/コスメ薬機法管理者)

【出典】